ども、らーにゃです。今回は「組織の不条理」について言及したいと思います。
普段、会社でなんでこんな決定をするのだろう…と思うことはありませんか?
会社に入ると、往々にして理解しえない意思決定がなされることは日常茶飯事です。
では、どうしてこのようなことが起きてしまうのか?
この書籍では、人が介在することで起きる合理的じゃない意思決定の理由を心理学的なアプローチで解説しています。
組織の意思決定について疑問を感じる人や、マネジメントをする人にオススメの書です。
目次
今回オススメしたい書籍
「組織の不条理」の概要
組織の意思決定について、歴史的な事例から現在の事例まで多くの具体例を交えて解説・解明してくれている書です。
内容としては、名著として名高い『失敗の本質』を更にわかりやすくかみ砕いてくれている書になります。
「戦艦ヤマトはなぜ誰もが負けるとわかっていながら出撃命令が出てしまったのか」
など、歴史的に有名な場面で関わる人の心理がどう働いたのか、そしてそれによってどう意思決定がなされたかなどが具体的に記載されています。
この本だけでも十分に理解は深まりますが、この本でザックリと理解した上で、下記の書籍を読むと、理解がさらに一層深まります。
「組織の不条理」の目次
本書は以下のような構成でまとめられています。
第1部 組織の不条理解明に向けて
組織の新しい見方
新制度派経済学入門
なぜ組織は不条理に陥るか
不条理な組織行動を説明する理論第2部 組織の不条理と条理の事例
大東亜戦争における日本軍の興亡
日本軍はどのように戦ったか
不条理なガダルカナル戦
なぜ組織は後もどりできなかったのか
不条理なインパール作戦
なぜ組織は最悪の作戦を阻止できなかったのか
不条理を回避したジャワ軍政
なぜ組織は大量虐殺を回避できたのか
不条理を回避した硫黄島戦と沖縄戦
なぜ組織は大量の無駄死にを回避できたのか第3部 組織の不条理を超えて
「組織の不条理」本書より
組織の本質
軍事組織と企業組織
組織の不条理と条理
進化か淘汰か
組織の不条理を超えて
不条理と戦う企業戦士たち
上記はざっくりいうと大きく下記の3点について触れます。
- 関連する心理学の考え方・要因
- 具体的な歴史的な事例
- 組織の意思決定のポイント
最初に抑えるべきポイント考えを理解し、その後に事例で納得して最後にまとめる展開です。
個人的には1部の冒頭の考え方を理解することが最重要だと感じています。
それを踏まえた上で2部で事例を元に理解を深め、3部で自分の身の回りのことに置き換えながら読むことで腹落ちします。
1部で触れる3つの理論が不条理を説明する骨格になります。
個人的実践ポイント
上述の通り、本書は組織の意思決定にフォーカスをあてて議論がなされます。
そのため、随所にポイントになることが多く出てくるわけですが、個人的にこれは抑えておきたいとおもったポイントは以下の通りです。
- 集団の心理は3つの理論が働く
- 組織の意思決定を説明する行動原理
- 組織の意思決定で大事なコト
順にふれていきます。
ポイント① 集団の心理は3つの理論が働く
まず、第1部で、話の中核になる理論は下記の3つの理論になります。
- 取引コスト理論
- エージェンシー理論
- 所有権理論
1つずつ触れていきます。
取引コスト理論とは
本書では以下のように説明がされています。
取引コスト理論ではすべての人間は限定合理的であり、しかも人間は相手の不備に付け込んで悪徳的に自己利害を追求する機会主義的傾向があると考える。
それゆえ、市場取引する場合、だまされる可能性があるので、相互に取引前に相手を探索し、弁護士などを仲介させて正式に契約を交わし、そして契約後も契約履行を監視する必要がある。
このように、取引が完了するまでに様々なコストが発生する。これら取引をめぐる一連のコストが「取引コスト」と呼ばれるものである。
そしてこの取引コストのために、本来、効率的な方法があっても選択されず、本来、非効率な方法が選択されることもありうる。
つまり、人間は限定合理的であるために、非効率的な現象が発生するということである。
「組織の不条理」より
つまり、諸々疑ったり、リスクヘッジをしたりと、表向きとは異なる考慮しなければいけないことが多いということです。
一言でいうと、「何かをやろうと思っても面倒になることが多いから結果的にやらない」みたいなことです。
これは、どんなことでもよくあることです。性悪説に基づいたリアリズムの考え方ですね。
これが1つ目の理論、コスト理論でした。また、これと併せて抑えたいのが次の理論です。
エージェンシー理論とは
本書では以下のように説明がされています。
取引関係は依頼人であるプリンシパルと代理人であるエージェントからなるエージェンシー関係、つまり代理人関係として分析される。
たとえば、株主と経営者との関係では、株主がプリンシパルで経営者がエージェントとなる。また、経営者と従業員の関係では、経営者がプリンシパルで従業インがエージェントとなる。さらに下請け会社では、組み立てメーカーがプリンシパルで部品供給メーカーがエージェントとなる。
このようななエージェンシー関係では、プリンシパルとエージェントはともに効用を極大化するためにそれぞれ利害を追求するが、両者の利害は必ずしも一致しない。
このように利害が不一致で、情報の非対称性が成り立つようなエージェンシー関係では、契約後にエージェントがプリンシパルの意図通りに行動するとは限らない。
エージェントはプリンシパルとの契約を破り、隠れて手を抜き、そしてさぼりだすといった非倫理的なモラル・ハザード現象を起こす可能性がある。
「組織の不条理」より
これも文言は難しいもののよく考えると現実的によくある話な気がします。
目的がそろっていないと、両者が同じ方向に進むのは難しく、往々にして意図した方向に進まないということです。
学校で勉強しろと教員にいわれても勉強をしない生徒や、会社で数値を上げろといわれても手を抜いて営業をする社員などはあるあるです。
つまり、これは言う側と言われる側の目的がそろっていないことがボトルネックになっている可能性が高いわけです。
また、これが会社間になったとしても目的がそろわないと似たようにアライアンスがうまくいかないということも容易に想像できます。
これが2つ目のエージェンシー詩論についてでした。
所有権理論とは
そして最後に所有権理論についてです。本書では下記の言及があります。
所有権理論では、剤の所有関係の不明確さがもたらす資源の非効率な利用の問題が分析される。そして、その解決策として様々な制度の派生が説明される。
この理論でも、人間は自己利害を追求するが、人間の情報をめぐる能力は限定されており、人間は限定合理的にしか行動できないものと仮定される。
もし人間が限定合理的でならば、財の持つ多様な特質を認識できず、その特質をめぐる所有権を誰かに明確に帰属させることもできない。
それゆえ、財の使用によってもたらされるプラス・マイナス効果をだれにも帰属できないような事態が発生することになる。
「組織の不条理」より
これは一見理解しがたいように見受けられますが、昨今の環境問題などがまさに該当します。
全体の影響は考慮せず、個人の局所的なメリットで意思決定がなされるということです。
例えば、環境汚染になるとわかりながらも、ディーゼル車で二酸化炭素をまきちらしてドライブを楽しむなどということは普通におきています。
これまた身の回りでよくある話なわけです。
以上、これらの3つの理論を頭にいれておくと、なぜ不条理なことが起きるのかということが説明しやすくなります。
どれも聞いたことはなかったですが、めちゃくちゃしっくりくる理論です
ポイント② 組織の意思決定を説明する行動原理
もう一つ、意思決定をされる際の考え方としてこの2つの視点が出ます。
- 意思を変えた時に生じるコスト
- 得られる個人のメリット
という点です。
例えば、現在組織におけるワンマン経営の会社の例がわかりやすいのですが、本書では以下のような指摘があります。
ワンマン体制では、社員は決して本音を言わないだろう。というのも、このような体制では、社員が積極的に意見を述べ、その意見を上層部に伝えるには様々な交渉取引プロセスをたどる必要性があり、このプロセスをたどるためにはあまりにも「取引コスト」が高いからである。
それゆえ、このような取引コストを考慮すると、たとえ会社が非効率で不正な状態になったとしても、社員は誰も積極的に発言しようとはしないだろう。
これが社員にとっては合理的な行動なのである。むしろ、議論をしないで会議を早く終わらせるほうが、はるかにメリットがあることになる。
「組織の不条理」より
正義感をもって何かを変えようとするときは、それによるコスト(デメリット)が多いということです。
つまり、意思決定は下記のような分岐になります。
- (メリット)-(コスト)>0の場合
▶頑張って現状を変える意思決定をする - (メリット)-(コスト)<0の場合
▶骨折り損になるため現状を変える意思決定をしない
ということです。
こうやって表記すると非常にシンプルですね。
この点で、歴史的な事例をあてはめても同じことが言えます。
がダルカナル戦では、近代兵器を駆使した米軍に対して、日本軍は三回にわたって白兵突撃を繰り返し、日本軍は全滅した。
当時、白兵突撃戦術は明らかに非効率な戦術であった。しかし日本陸軍はその戦術を放棄し、変更することができない状況にあった。
というのも、長い年月と多大なコストをかけて訓練してきた日本陸軍伝統の白兵突撃戦術を放棄した場合、これまで白兵突撃戦術に投資してきた巨額の資金が回収できない埋没コストになったからである。
また、その変更に反発する多くの利害関係者を説得するために、多大な取引コストを負担しなければならない状況にあったからである。
このような状況に追い込まれると、たとえ白兵突撃戦術が非効率であったとしても、それを放棄して巨額のコストを負担するよりは、その戦術にかすかな勝利の可能性さえあれば、その戦術を変えずにそのまま進む方が合理的となるような不条理な状態に追い込まれることになる。
この典型的事例がガダルカナル戦での日本軍の不条理な行動なのである。
「組織の不条理」本書より
これは何となくイメージがわきます。
熱血漢にあふれた旧日本軍のイメージとしてはいくら論理的に説得したところで「臆病な奴だ!!」締め上げられるといった印象です。
上記の理由を考えれば、このイメージは大なり小なりあながち間違っていない気がします。
そして、先ほどのワンマン経営の似たようなことが現在の会社組織における取締役会などでも起こりえます。
今日、コーポレート・ガバナンス(企業統治)問題の一つとして注目されている取締役会の無機能化についても、日本では同じような不条理が発生していると思われる。
たとえば、今日、ほとんどの日本企業は社長の権力が強い。社長が人事権を握り、社長が自ら判断して辞任する以外に、社長を退任んさせられるような手続きやメカニズムは日本企業にはほとんどないと言われている。
こうした状況にある日本企業の取締役会では、明らかに社長が打ち出した基本戦略や方針が非効率で、いくぶん不正なものであり、それゆえこのままでは会社の運命が危ぶまれるとわかっていたとしても、取締役員たちが社長の打ち出した戦略や方針を変化させ、より効率的で正当な方向に修正させることは難しい。
よいいうのも、社長の意見を変えさせたり、社長を解任するためには様々なプロセスと手続きを必要とし、そのための取引コストはあまりにも高いからである。
特に、自分が社長によって取締役に任命され、社長の域がかかっているような場合には、社長の意見に反対し、変更を求めたり、そして社長を解任に追い込むようなプロセスに参加するにはあまりにもコストが高いのである。
「組織の不条理」本書より
つまり、メリットがわかったとしても成功している企業ほど、既存の戦略をかえるのに、相当なコストがあるということです。
社会人人生で死ぬ覚悟がないとこの意思決定をするのは難しいわけで、そこまでリスクをとる人がいるのなかと思うような内容です。
イノベーションのジレンマにも共通するところがある気がしますが、一度成功した企業(特に大企業など)ほどこういう事態に陥りやすいと思います。
いわゆる大企業病というやつかなーと思うわけです。
扱う領域は違えど根本の原因は共通しているのかもね。
ポイント③組織の意思決定において大事な͡コト
では意思決定はどのようにするべきか?
本書では組織の意思決定のポイントとして成功例などを見ながら下記のような結論めいた話があります。
このような批判的議論の場、批判的組織風土、批判的組織文化という考えを、単なる西洋合理主義とみなすべきではない。
このような考えは、時代や場所とは無関係に、成功者にみらっれる普遍的な条件なのである。
「組織の不条理」本書より
つまり、「批判的議論・組織」というのがキーワードであり、俗にいわれる「クリティカルシンキング」に近い考えが述べられている。
具体例も下記のように合わせて記載がある。
たとえば、このような自由な批判的議論の場、組織風土、組織文化は、戦後の日本企業の生産技術を支えてきたQCサークルに見出すことが出来る。
ここでは、従業インが少数のグループに組織化され、このグループによって現場で発生する諸問題が独自に現場で把握されることになる。
とくに、品質が悪くなる原因が批判的に究明され、その改善策が現場で立案され実行されていく仕組となっている。それはまさしく批判的合理的な議論の場なのである。
また、「セイコー」を世界的な企業に成長させた服部一郎は、保守的で無批判的な純血主義経営はひよわだとし、何よりも雑種、雑草でないと会社は生き残れないと考えた。
そのため、あえて役員から技術者まで外の血を入れ、混血して批判的議論の場を形成したのである。
「組織の不条理」本書より
セイコーは個人的に好きなメーカーであったりするので、なるほどーとうなりながら読んでしまいました。
良くも悪くも一族経営的な距離の近い人同士で意思決定をすれば、阿吽の呼吸でスピードは速まるものの批判的思考が弱まるという点はあります。
またリーダーのセンスが良い時であれば良いですが、そのトップが変わった瞬間にもろくも崩れ落ちるみたいな話もあります。
個人的にはこの話を思い出してしまいます。
■ご参考リンク(大塚家具に学ぶ経営者がやってはいけないこと)
壮絶な親子喧嘩という新聞のタイトルが目をひいて話題になりましたが、
根本的には上記のような批判的議論・組織ではなかったのではないかと思ってなりません。
簡単なことではないですが、成功例と失敗例の両方を見ながら何がポイントかを見極めたいものですね。
自組織も自分自身もこのスキルは非常に弱いです。。日本人が苦手な代表的なジャンルですね。
まとめ
上記の通り、この本を読んで印象的であったのは以下の3点です。
- 集団の心理は3つの理論が働く
▷取引コスト理論、エージェンシー理論、所有権理論を抑えて考える - 組織の意思決定を説明する行動原理
▷(メリット)ー(コスト)が0を超えるかどうかで考える - 組織の意思決定で大事なコト
▷批判的な議論の場・クリティカルシンキングの風土が最重要である
今回は組織のおかしな意思決定の理由について触れてきました。
現在、複数の人が介在する組織では、歴史をさかのぼっても大なり小なり似たような不条理が起きていたことが分かります。
それも、どの年代でもどの国でも起きうるような普遍的なことなのだなぁということも理解できます。
この本質を踏まえた上で、組織と対峙して組織内でどううまく立ち回れるか。個人の行動に落とすときはここがポイントです。
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